コーチングといえば「質問」が大切。
そう聞いたことのある方は多いかもしれません。
実際、市販されている「質問カード」や「コーチング用ワークシート」は、思考を促す道具として人気があります。
しかし、私たちスポーツメンタルコーチは、それらをあえて使いません。
なぜなら、そこには「質問」と「問い」の本質的な違いがあり、スポーツの現場では“問い”の力こそが、アスリートを変化へ導くからです。
今回は、その違いと、スポーツメンタルの視点から見た「問いの重要性」について、深掘りしていきます。
質問と問いの違いとは?
一見似ているようでいて、まったく違うもの──それが「質問」と「問い」です。
まずは、それぞれの定義を明確にしておきましょう。
- 質問:答えを知るための手段。情報収集や確認が目的。
例:「昨日は何を食べた?」「試合前は緊張するタイプ?」 - 問い:思考や内省を促すきっかけ。答えよりも“考えること”そのものが目的。
例:「なぜ、それを選んだんだろう?」「どうしてその瞬間、動けなかったんだろう?」
質問は、コーチ(支援者)が知りたい情報を引き出すための手段になりがちです。
一方、問いは、アスリート自身が“自分の内側にアクセスする”ためのきっかけになります。
つまり、質問は外向き、問いは内向きなのです。
スポーツの現場では「正解」より「納得」が大切
スポーツの世界には、答えがありません。
ある試合で勝った方法が、次の試合でも通用するとは限らない。
自分にとって最適なルーティンも、他人にとっては負担になることもあります。
だからこそ、選手には「自分の言葉」で考える力が必要です。
その力を引き出すのが、“問い”です。
たとえば、試合でうまくいかなかった選手に対して、
- 「何が原因だったと思う?」(問い)
- 「練習不足だった?」(質問)
という2つのアプローチがあります。
前者は選手に“主導権”を渡しますが、後者は答えを誘導してしまう可能性があります。
問いは、選手の中にある“まだ言語化されていない感覚”に光を当てる。
そこから、自分の言葉で答えを見つけることが、次の成長につながっていくのです。
なぜスポーツメンタルコーチは質問カードを使わないのか?
ではなぜ、便利そうな「質問カード」を使わないのか?
その理由は、質問カードが“表面的な会話”にとどまりやすいからです。
たとえば、カードに書かれた「あなたの夢は何ですか?」という質問。
悪い質問ではありませんが、「なんとなく答えなきゃ」と思わせてしまう危険があります。
それに対してスポーツメンタルコーチは、こう考えます。
- その選手は、今どんな状態なのか?
- どんな言葉なら、心が動くだろうか?
- どのタイミングで、どんな温度感で問いかけるべきか?
つまり、問いはその場その場で「共につくる」ものであり、あらかじめ用意されたものでは届かないのです。
質問カードの“便利さ”に頼ることで、「本当に届けたい言葉」を見逃してしまうリスクがある。
だからこそ、私たちはカードを使わず、“その場で生まれる問い”を大切にしています。
問いとは、「関係性」の上に立つ技術
問いには“正解”がありません。
だからこそ、相手の心に届くには、信頼関係が前提になります。
たとえば、同じ「どうしてそう思ったの?」という問いでも、
- 相手との関係性が浅ければ「詰問」に聞こえる
- 信頼関係がある状態なら「関心」として伝わる
スポーツメンタルコーチが問いを立てるとき、それは技術というより、在り方そのものです。
選手の言葉に本気で耳を傾け、言葉の裏にある感情や意味を受け止め、そして“心が動く”タイミングを見計らって問いかける。
問いは、支援者の感性と信頼が織りなす“対話の芸術”なのです。
「問い」は選手を自立に導く力を持っている
質問は答えて終わり。
問いは、考え続ける中で“新たな自分”と出会う機会を生み出します。
スポーツメンタルコーチングの目的は、選手を依存させることではありません。
最終的には、自分自身で自分のメンタルを整えられる「自立したアスリート」を育てること。
そのためには、表面的な会話ではなく、深く内省できる問いを届ける必要があります。
だからこそ、スポーツメンタルコーチは、目の前の選手に“ぴったりの問い”を見つけることを大切にしています。
まとめ:問いの力がアスリートの変化を生む
コーチングにおいて「質問」は大切です。
しかし、スポーツメンタルの世界では、それ以上に「問い」が重要だと私たちは考えています。
問いには、
- 相手の“考える力”を引き出す
- 自分の言葉で気づきにたどり着く
- 自立したメンタルの土台をつくる
という力があります。
便利なツールやテンプレートでは届かないものが、問いにはあります。
だからこそ、スポーツメンタルコーチは、「問いを生む感性」を磨き続けているのです。
最後に:あなたは、問いを届けていますか?
もしあなたがスポーツ指導者であれば、ぜひ自問してみてください。
- それは“答えを聞くための質問”になっていないか?
- 選手の思考を“預かって”いないか?
問いは、アスリートの未来を信じる力です。
スポーツメンタルコーチングを通して、私たちはその力を磨き続けています。