アスリートのセカンドキャリアとは?今を大切にすることが未来を切り拓く

目次

はじめに

アスリートにとって「セカンドキャリア」という言葉は、避けては通れないテーマかもしれません。
引退後の人生をどうするのか、どんな仕事に就くのか──周囲からそうした問いを投げかけられるたびに、不安やプレッシャーを感じた経験がある人もいるでしょう。

けれど、よく考えてみてください。
人生には「ファースト」や「セカンド」という明確な区切りは本当にあるのでしょうか。

海外では「キャリアトランジション(Career Transition)」という言葉がよく使われます。これは「終わり」や「次」というよりも、あるキャリアから別のキャリアへの“移行”を意味しています。つまり、スポーツ人生とその後のキャリアは切り離されたものではなく、地続きのものなのです。

もちろん、現役のうちに準備できることはあります。学び、人とのつながり、経験の整理など、小さな積み重ねが未来を支える土台になります。
しかし同時に、**アスリートとしてプレーできる時間は「今しかない」**ということも忘れてはいけません。

キャリアの準備に囚われすぎて「今の競技」を疎かにしてしまえば、せっかくの大切な時間を失ってしまうかもしれません。だからこそ大事なのは、現役を全力で生きながら、未来の準備を少しずつ進めていくことです。

この記事では、セカンドキャリアを「不安」や「引退後の問題」として捉えるのではなく、「今を生きること」と「未来を描くこと」をどう両立していけばいいのかを考えていきたいと思います。

第1章 セカンドキャリアという言葉の誤解

日本では「セカンドキャリア」という言葉が広く使われています。多くの場合、「現役を終えた後の人生」という意味で使われますが、この表現には少し誤解が含まれているかもしれません。

なぜなら、「セカンド」という言葉には「次」「二番目」というニュアンスがあり、あたかも「現役時代=第一の人生」「引退後=第二の人生」と区切られているように感じてしまうからです。

しかし実際には、人生はそんなに単純に二分できるものではありません。スポーツで培った経験、努力の積み重ね、人との関わりは、引退した瞬間に消えるわけではなく、次のステージへとつながっていきます。

海外での考え方 キャリアトランジション

海外では「セカンドキャリア」というよりも キャリアトランジション(Career Transition) という言葉がよく使われます。
これは「終わり」や「次」というよりも、「移行」「変化」を意味する言葉です。

つまり、アスリートとしてのキャリアも、その後のキャリアも、すべては一本の道としてつながっているという考え方です。
スポーツで培った経験は新しいキャリアの中で生きており、どちらが“ファースト”でどちらが“セカンド”という区切りはないのです。

誤解が生む不安

「セカンドキャリア」という言葉に縛られてしまうと、選手は「引退後の準備をしなければ」という不安に追われがちです。
もちろん準備は大切ですが、それが強すぎると「今の競技に集中できない」という逆効果を生むこともあります。

本来なら、現役の充実と未来の準備は対立するものではありません。両立できるものです。
だからこそ、「セカンドキャリア」という言葉の誤解を解きほぐし、もっと柔軟に「キャリアトランジション」として捉えることが大切なのです。

第2章 現役中にできる準備とその限界

多くのアスリートが「セカンドキャリアに向けて準備をしなければ」と考えます。実際、現役中にもできる準備は数多くあります。例えば、資格取得や語学の勉強、社会人とのネットワークづくり、インターンシップへの参加などです。これらは引退後の選択肢を広げる大切なステップになります。

しかし、ここで忘れてはいけないのは、アスリートとしての時間は今しかないということです。
競技人生は有限であり、そのピークは一瞬の輝きで過ぎ去っていきます。

もし「将来の準備」を優先するあまり、今の練習や試合に全力を注げなくなったら本末転倒です。
極端に言えば、未来のキャリアを守ろうとして、現役でのキャリアを犠牲にしてしまう危険もあるのです。

バランスをどう取るか?

大切なのは、準備と現役を両立するバランスです。
例えば、現役中に勉強を始めても、それが練習や試合に支障をきたすほどであれば、長期的には良い結果につながりません。
一方で、競技に100%全力を注ぎながら、オフの日や空き時間を使って少しずつ学びを積み重ねることなら可能です。

また、準備の段階で「キャリアの軸」を意識しておくことも重要です。
単に資格を取る、経験を積む、ということよりも、「自分が将来どんな価値を社会に提供したいのか?」 を考えることが、現役中の小さな準備をより意味のあるものにしてくれます。

限界を理解することも準備の一部

現役中に全てを完璧に準備することはできません。
むしろ「限界がある」という事実を受け入れることこそ、賢い準備の第一歩です。

つまり、現役の今しかできないこと(全力の挑戦)と、現役中でも少しずつ進められること(キャリア準備)を分けて考えること。
その上で、今の競技人生を最大限に楽しみ、充実させることが、結果的に次のキャリアにもつながっていくのです。

第3章 キャリアトランジションという考え方

日本では「セカンドキャリア」という言葉がよく使われますが、実はこの表現には少し誤解が含まれています。まるで「ファーストキャリアが終わり、次にセカンドキャリアが始まる」という二分法的な見方です。しかし、海外では「キャリアトランジション(Career Transition)」という表現が一般的に用いられています。

この言葉が示しているのは、「キャリアは直線的に一度きりのものではなく、状況や環境に応じて変化し続けるもの」という考え方です。つまり、キャリアには“ファースト”や“セカンド”といった区切りはなく、常に移行し、成長していくプロセスなのです。

アスリートにおけるキャリアトランジション

アスリートの場合、現役引退はひとつの大きな節目となります。しかし、それは「キャリアが終わった」という意味ではありません。むしろ、これまでの競技生活で培った経験やスキルを、次の場面にどう生かすかを考えるきっかけになります。

競技中に身につけた集中力や自己管理能力、目標達成へのプロセスは、ビジネスや教育、地域活動など、さまざまな場で活用可能です。
このように、引退は終わりではなく、新しいキャリアへの移行(トランジション)の始まりだと捉えることが大切です。

トランジションを支える心の持ち方

ただし、トランジションの過程は必ずしもスムーズとは限りません。新しい環境に飛び込むと、アイデンティティの揺らぎや不安が伴います。そこで重要になるのが、「自分の価値は競技結果だけで決まらない」という認識です。

この認識を持てるかどうかが、移行期を前向きに過ごせるかの分かれ道になります。スポーツメンタルコーチとしても、アスリートが「今までの経験をどう次につなげるか」を一緒に考えていくことが求められます。

第4章 今にしかないアスリートとしての時間を大切にする

キャリアの移行や未来の準備を考えることは確かに重要です。ですが、忘れてはいけないのは 「アスリートとして過ごせる今の時間は、二度と戻ってこない」 ということです。

試合での緊張感、仲間と汗を流した練習時間、観客の声援を受けながらプレーできる舞台。これらは引退してからでは体験できない、唯一無二の瞬間です。

未来ばかりを見すぎない

現役生活の中で、「将来どうしよう」「このままで大丈夫だろうか」と不安になることは自然なことです。むしろ、そうした準備をしておくことがキャリアトランジションを円滑にする大きな鍵になります。

ただし、未来に意識が偏りすぎると、今しか体験できない競技生活を十分に味わえなくなる危険があります。未来の準備と同時に、「今、ここ」に全力を注ぐことこそが、アスリート人生を豊かにする要素です。

「いまを生きる」姿勢が次のキャリアにもつながる

スポーツメンタルコーチングでは、「現在の一瞬に集中すること」がメンタルの安定や最高のパフォーマンスにつながると考えます。これはマインドフルネスや禅の思想とも重なり、まさに「今を生きる」感覚です。

不思議なことに、この姿勢は次のキャリアを生き抜く力にもなります。未来を不安に思うのではなく、今できることに集中して積み重ねることで、後悔のないキャリアトランジションを迎えることができるのです。

「今の時間」をどう記録し、どう残すか

現役時代にしか経験できない瞬間は、あとから振り返ると大きな財産になります。日々の練習での気づき、試合での感情の揺れ、仲間や指導者とのやり取り。これらを記録しておくことで、自分の成長を実感できるだけでなく、将来のキャリアでも大きな武器になります。

だからこそ、アスリートとしての今の時間を全力で生き抜きましょう。準備は大切ですが、今という瞬間を味わい尽くすことが、結局は未来をつくる最良の方法なのです。

第5章 今この瞬間を大事にすることがパフォーマンスアップにつながる

セカンドキャリアを考えることも大切ですが、忘れてはいけないのは 「今をどう生きるか」 です。

アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できるのは、未来の準備に気を取られている時ではなく、目の前のプレーに集中している時です。脳科学的にも、余計な思考や不安を手放して「今ここ」に意識を向けることで、神経系がスムーズに働き、反応や判断が最適化されることがわかっています。

禅の教えにも「只管打坐(しかんたざ)」という言葉があります。意味は「ただひたすらに坐る」ですが、これはスポーツに置き換えると「ただ目の前のプレーに没頭する」という姿勢そのものです。勝ち負けや未来の不安にとらわれすぎると、その瞬間の力を出せなくなります。しかし、今の自分の呼吸や身体の感覚、ボールの軌道や仲間の声に意識を向けられたとき、本当のパフォーマンスが花開きます。

そして皮肉なことに、「今」を大切にする姿勢こそが、結果として未来のキャリアにも大きなプラスになります。現役をやり切ったという充実感が、次のキャリアへの自信につながるからです。

だからこそ、アスリートの皆さんに伝えたいのはシンプルなことです。
「今この瞬間を味わい尽くすことが、あなたの未来を最も強くする」

その積み重ねが、現役生活を輝かせ、引退後のキャリアトランジションを力強く支えるのです。

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