はじめに|年末年始はメンタルコーチにとって「整える時間」
年末年始は、多くの方にとって休息の期間でございます。
試合や現場が落ち着き、日常の緊張感から一時的に距離を取ることができる時期でもあります。
メンタルコーチにとっても、普段の忙しさから一歩引いて自身を見つめ直すことができる、貴重な時間と言えるでしょう。
しかしながら、この期間を単なる休息として過ごすか、
あるいは自分自身を整える時間として活用するかによって、
翌年のメンタルコーチとしての在り方や関わりの質には大きな差が生じます。
メンタルコーチの仕事は、知識や技術のみで成り立つものではございません。
どのような姿勢で相手の話を聴き、
どのような距離感で関わり、
どのような在り方で目の前の方と向き合っているか。
その積み重ねが、選手や指導者との信頼関係を築いていきます。
日々の現場に身を置いていると、
ご自身の関わり方やメンタルの状態を、
落ち着いて振り返る時間を確保することは容易ではありません。
だからこそ、年末年始という比較的静かな時間が重要となります。
この時期は、結果や評価から一度距離を置き、
「自分はどのようなメンタルコーチでありたいのか」
「どのような関わり方を大切にしたいのか」
といった本質的な問いに向き合う絶好の機会です。
本記事では、
メンタルコーチとして成長し続けるために、
年末年始に意識しておきたい視点を五つに分けて解説してまいります。
派手なノウハウや目標設定ではございませんが、
一年後に確かな差を生み出す、
静かで重要な準備についてお伝えしていきたいと存じます。
第1章|なぜメンタルコーチにとって年末年始の振り返りが重要なのか
メンタルコーチにとって、年末年始は特別な意味を持つ期間でございます。
それは単に現場が落ち着く時期だから、という理由だけではありません。
一年を通して、メンタルコーチは常に「今」に向き合っています。
試合前の不安、結果が出ない焦り、怪我や選考に対する恐怖。
そうした感情を抱えた選手や指導者と関わる以上、
立ち止まって自分自身を見つめ直す余裕は、どうしても後回しになりがちです。
忙しさの中では、
「うまくいっているかどうか」
「求められている役割を果たせているか」
といった表面的な判断に意識が向きやすくなります。
しかし、その状態が続くと、
自分の関わり方が本当に適切だったのか、
自分の在り方がブレていなかったかを、
振り返る機会を失ってしまいます。
年末年始は、その流れを一度断ち切るための時間です。
試合結果や評価といった外的な要因から距離を置き、
自分自身を客観的に捉え直すことができる、数少ない機会と言えるでしょう。
また、振り返りを行わないまま新しい一年を迎えると、
前年と同じ課題を、無意識のうちに繰り返してしまう可能性が高くなります。
同じ関わり方、同じ悩み、同じ迷いを抱えたまま、
一年を過ごすことになりかねません。
成長し続けるメンタルコーチに共通しているのは、
技術や知識を増やすこと以上に、
定期的に自分自身を振り返る習慣を持っている点です。
年末年始は、そうした内省を行うための
時間的にも心理的にも、最も適したタイミングです。
「今年、自分はどのような関わり方をしてきたのか」
「その関わり方は、自分が大切にしたい価値観と一致していたのか」
この問いに向き合うことが、
翌年のメンタルコーチとしての在り方を形づくっていきます。
年末年始の振り返りは、
過去を反省するためのものではございません。
未来に向けて、自分の軸を整えるための時間です。
この時間をどのように使うかが、
一年後の自分自身、そして関わる選手やチームに、
大きな影響を与えることになるのです。
第2章|成果ではなく「関わり方」を振り返ることがメンタルコーチの成長につながる
メンタルコーチとして一年を振り返る際、
多くの方がまず思い浮かべるのは「成果」ではないでしょうか。
勝敗、結果、記録、評価、周囲からの反応。
こうした分かりやすい指標は、どうしても意識に残りやすいものです。
しかしながら、メンタルコーチの仕事において、
成果そのものは必ずしも自分でコントロールできるものではございません。
どれほど丁寧に関わったとしても、
結果が伴わないこともあれば、
逆に意図せず良い結果につながることもあります。
その中で、メンタルコーチが確実に振り返ることのできるもの。
それが「関わり方」です。
たとえば、
選手の話を最後まで遮らずに聴けていたか。
不安や迷いを、すぐに解決しようとしていなかったか。
自分の経験や価値観を、無意識に押し付けていなかったか。
必要以上に介入しすぎていなかったか、
あるいは距離を取りすぎていなかったか。
こうした関わり方の一つひとつが、
選手との信頼関係や、心理的安全性に大きく影響します。
成果だけを基準に振り返ってしまうと、
結果が出なかった関わりを「失敗」と捉えてしまいがちです。
しかし、関わり方に目を向けることで、
その中に多くの学びを見出すことができます。
たとえ結果に結びつかなかったとしても、
相手の主体性を尊重できていたのであれば、
その関わりは無意味ではありません。
むしろ、長期的な成長につながる大切なプロセスであった可能性もございます。
年末年始の振り返りでは、
「結果が出たかどうか」ではなく、
「自分はどのような姿勢で関わっていたのか」
という視点を持つことが重要です。
関わり方を振り返ることは、
自分自身の思考の癖や、無意識の行動パターンに気づくことでもあります。
それは、メンタルコーチとしての技量を高めるだけでなく、
人としての在り方を整えることにもつながっていきます。
成果はコントロールできません。
しかし、関わり方は選び続けることができます。
年末年始にその点を丁寧に振り返ることが、
翌年、より信頼されるメンタルコーチとして活動していくための、
確かな土台となるのです。
第3章|メンタルコーチ自身のメンタルを整えるという最優先課題
メンタルコーチの仕事は、
他者の感情や思考と深く向き合う専門職でございます。
選手や指導者が抱える不安、焦り、怒り、迷い。
そうした感情に日常的に触れながら関わる以上、
知らず知らずのうちに、コーチ自身の心にも負荷がかかっていきます。
特に、共感力の高いメンタルコーチほど、
相手の感情を自分のことのように受け取ってしまう傾向がございます。
これは強みである一方、
意識的に整える時間を取らなければ、
心の疲労が蓄積してしまう原因にもなります。
一年を通して走り続けた後、
年末年始に一度立ち止まり、
自分自身のメンタル状態を点検することは非常に重要です。
たとえば、
今年、心に引っかかっている出来事はなかったか。
本当は違和感を覚えながらも、我慢して関わった場面はなかったか。
「良いコーチでいなければならない」という思いが、
自分を追い込んでいなかったか。
こうした問いに向き合うことは、
決して弱さを認めることではございません。
むしろ、専門職として自分を守り、
長く現場に立ち続けるために欠かせない姿勢です。
メンタルコーチ自身が整っていなければ、
相手のメンタルを整えることはできません。
これは理念や理想論ではなく、
現場に立ち続ける中で、多くのコーチが実感している事実です。
年末年始は、
自分の感情を整理し、
必要であれば距離を取ることを自分に許し、
心をリセットするための大切な期間です。
この時間を通して、
「自分は今、どのような状態で人と関わっているのか」
を丁寧に確認しておくことが、
翌年の安定した関わりにつながっていきます。
メンタルコーチにとって、
自分自身のメンタルを整えることは後回しにして良いものではございません。
むしろ、最優先で取り組むべき重要な仕事の一つなのです。
第4章|来年「やること」よりも先に「やらないこと」を決める
年末年始になると、多くの方が新しい一年に向けて、
目標や計画を立て始めます。
「来年はこれをやる」「さらに成長したい」「活動の幅を広げたい」
そうした前向きな意欲は、とても大切なものです。
しかしながら、メンタルコーチという仕事においては、
やることを増やす前に、
「やらないこと」を明確にする視点が欠かせません。
なぜなら、メンタルコーチの関わりは、
自分自身の在り方やエネルギーに大きく影響されるからです。
関わる相手や仕事を無制限に増やしてしまうと、
知らず知らずのうちに、関わりの質が下がってしまう可能性がございます。
たとえば、
結果を急かすような関わりをしない。
自分が答えを出そうとしすぎない。
相手の課題を、自分の課題として背負い込まない。
強い違和感を抱えたまま、人間関係を続けない。
自分を消耗させる案件を、安易に引き受けない。
これらは決して逃げや妥協ではございません。
むしろ、自分が大切にしたい価値観や哲学を守るための、
主体的な選択と言えるでしょう。
やらないことを決めておくことで、
現場で迷う時間が減り、
判断が早く、そして安定したものになります。
結果として、目の前の相手に、
より丁寧に向き合う余裕が生まれてきます。
また、「やらないこと」を明確にすることは、
メンタルコーチとしての専門性を明確にすることにもつながります。
何でも引き受けるコーチではなく、
自分の軸を持って関わるコーチであることは、
長期的な信頼の構築において非常に重要です。
年末年始は、
来年の目標を考える前に、
「これ以上、自分は何を背負わないのか」
を静かに整理する絶好の機会です。
この選択が、
翌年の活動を持続可能なものにし、
メンタルコーチとして長く現場に立ち続けるための、
大切な土台となっていくのです。
第5章|年末年始の内省が「信頼されるメンタルコーチ」をつくる
― 禅語に学ぶ、整えるという在り方 ―
メンタルコーチにとって、
技術や知識の習得は欠かすことのできない要素でございます。
しかしながら、現場で本当に信頼されるかどうかを分けるのは、
それら以上に「在り方」であると感じる場面が多くございます。
禅の世界には、
「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」
という言葉がございます。
これは、良い日も悪い日も分け隔てることなく、
その日そのものを受け入れるという意味を持つ禅語です。
メンタルコーチの現場においても、
常に順調な日ばかりが続くわけではございません。
手応えを感じる日もあれば、
自分の関わりに迷いを覚える日もあります。
年末年始の内省とは、
そうした一年の出来事を、
良し悪しで裁くための時間ではなく、
そのすべてを受け止めるための時間と言えるでしょう。
また、禅には
「放下着(ほうげじゃく)」
という言葉もございます。
これは、余計な執着を手放しなさい、という意味です。
結果への執着、評価への執着、
「良いコーチであろう」とする過剰な意識。
それらを一度手放すことで、
初めて目の前の相手に、
素直に、誠実に向き合うことができるようになります。
年末年始に行う内省は、
自分を高めるためだけのものではございません。
むしろ、自分にまとわりついていた余計な力みを手放し、
自然な在り方に戻るための時間です。
さらに禅の教えには、
「初心忘るべからず」
という言葉もございます。
経験を積むほどに、
人は無意識のうちに慣れや驕りを抱えてしまいます。
年末年始に自分の関わり方を振り返ることは、
メンタルコーチとして歩み始めた頃の、
謙虚さや誠実さを思い出す機会でもあります。
静かに自分を見つめ、
整え、手放し、初心に立ち返る。
この繰り返しが、
技術では測れない信頼を育てていきます。
メンタルコーチの仕事は、
人の心に触れる仕事です。
だからこそ、自分自身の在り方を整え続けることが、
何よりも重要となります。
年末年始の内省は、
目に見える成果を生み出すものではございません。
しかし、その静かな積み重ねこそが、
一年後、自然と人が集まるメンタルコーチを育てていくのです。

